厚生労働省に追加質問【不妊治療】

特定不妊治療の助成制度について、厚生労働省にインタビューした記事を掲載しています

用意していた質問のうち、時間の関係でその場では聞けなかったものや、Twitterで匿名の不妊治療当事者から寄せられたご質問について、メールのやり取りで回答を得ています。

Q.世帯所得額の分析に関する特別集計(対象世帯の90%)を包含する世帯所得額の再計算の実施についての見解は。
A.所得制限は、経済的負担の軽減の必要性の高い者を対象とするために設けているものであり、所得制限の更なる見直しにつきましては、事業の実施状況や財政状況などを勘案し、必要に応じて検討してまいりたいと考えております。

前の記事の最後にまとめた、今後提言していく項目の1.にある特別集計を実施しないのか、という質問に対して、「必要に応じて検討して」、つまり必要だと思っていないので一旦やりません、という回答でした。対担当者で得た手ごたえから、公式の回答で温度感が下がるという行政あるあるですが、ここはやると言うまで粘るポイントです。

Q.現行制度でカバーしている対象の夫婦の割合を示してほしい。またその割合についてのご所見を伺う。
A.特定不妊治療(体外受精・顕微授精)を受けている夫婦の総数等を把握していないため、ご照会の割合についてお答えすることは困難です。

医療機関に対する管理監督権を持ち、情報の吸い上げができる立場にありながら、把握していないとか言われると脱力してしまいます。不妊治療に関する現時点での厚生労働省の本気度がよく表れています。自社製品のマーケットシェアを担当の部長に尋ねたら、マーケットの全体像が把握できていないのでお答えするのは困難です、と言われたら、年明けから役職外れますよ。役員も更迭でしょう。だから外部の調査会社に依頼したり、他社と情報交換をしたりして、何とかマーケットを把握しようと努力しているのが民間です。指示一つで正確な情報が集まる立場にありながら、把握していないと堂々と宣われたのは極めて残念です。

Q.少子化社会対策大綱における、子育て世代包括支援センター設置による具体的な成果を示してほしい。
A.子育て世代包括支援センターは、すべての妊産婦・乳幼児等を対象として、妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援を提供するものであり、平成31年4月時点では983市町村、1,717ヵ所に設置されている。 子育て世代包括支援センターの設置自治体によると、
・妊娠届出時に面接を行い、支援の必要な妊婦にはアセスメントシートを作成し、関係機関と連携することで、支援の必要な家庭の早期発見ができた
・地区担当保健師と関係機関(医療機関や児相等)が妊娠期から連携することにより、コーディネート件数、ケース会議の開催数が増加し、産後の介入がしやすくなり産後ケアなど適時適切な支援に繋がった
等の具体的な成果があがった旨の報告を受けている。

Q.子育て世代包括支援センターによる情報提供の具体例を示してほしい。
A.子育て世代包括支援センターでは、保健師等を配置して、妊産婦等からの相談に応じ、健診等の「母子保健サービス」と地域子育て支援拠点等の「子育て支援サービス」を一体的に提供できるよう、必要な情報提供や関係機関との調整、支援プランの策定などを行っている。

・子育て世代包括支援センターの設置自治体によると、
・親しみやすいキャラクターを用いた広報や
・若い世代向けに FacebookやLINEのSNSを活用した広報等、
対象者のニーズに応じ、様々なツールを活用した情報提供を実施している旨の報告を受けている。 

Q.本来保険適用されるべき項目を、クリニックが誤って自費で請求し、患者が気づいてクリニックに返金や還付を請求した場合、対応に応じないことは考えられるか。考えられる場合、どのような事情によるものか。
A.保険医療機関は、一定の療養の給付の担当方針等に従い、被保険者に対して、療養の給付を行う義務を有するものと解されている。本来保険給付されるべき療養について、医療機関が誤って自費で請求した場合については、医療機関において、診療報酬請求の修正の手続等の適切な対応がなされるべきものと考えている。

Q.クリニックからの返還がされない場合、国への請求は可能か 。治療成績のいいクリニックと患者のパワーバランスによっては、返金や還付を求めるのが難しいことが考えられるが、国や第三者機関で審査する仕組みを検討できないか。
A.一般的に、本来保険給付されるべき療養について、医療機関が誤って自費で請求したにもかかわらず、患者からの返金の請求に従わない場合は、保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和32年厚生省令第15号)第5条に規定する一部負担金を過剰に徴収しているおそれがある。仮にそのような事例が確認された場合は、事実関係を調査した上で、適切に指導等を行っていく。個別の事案において、保険医療機関における不適切な取扱いの可能性がある場合は、所管の地方厚生局都道府県事務所まで御相談いただきたい。

予約したのに3時間待合室で待って、診察は2分で終わるというような人気の医療機関に通う患者が、その2分を3分にして「先生、先日のこの治療が保険適用されていないのはなぜでしょう」と聞くのは到底無理、という現場感は全然伝わらなかったな、と思います。これについては忸怩たるものがありますが、「個別の事案において、保険医療機関における不適切な取扱いの可能性がある場合は、所管の地方厚生局都道府県事務所まで御相談いただきたい」という具体的なセカンドアクションが示されたのは前進かと思います。

Q.不妊治療の現実、内容、コンプライアンスについての解説、議論の機会がメディアや企業内で増えるべく、貴省で啓発を行うことはできないか
A.不妊等に悩む夫婦に寄り添い、不安や悩みを解消するための相談支援や、不妊治療に関する情報提供等を行うため、都道府県・指定都市・中核市における不妊専門相談センターの設置促進を行っている。 同センターについては、不妊治療に関する専門的知識を有する医師やその他社会福祉、心理に関しての知識を有する者等を配置し、保健所や大学病院等において、
・不妊や不育症に関する相談
・不妊治療と仕事の両立に関する相談
・不妊治療や不育症治療に関する情報提供
等を実施している。 引き続き、同センターの設置促進を通じ、不妊や不育症についての情報提供等に努めてまいりたい。

Q.不妊治療患者の労働環境の配慮を法制化できないか。不妊治療当事者の雇用に対するインセンティブを雇用側に設定してほしいが見解はいかがか。
A.仕事と不妊治療が両立できる職場環境の整備は重要な課題であるが、まだ職場では基本的なところでの理解不足があり、まず は、働きながら不妊治療を受ける従業員に対する事業主や職場の理解を促進することが重要であると考えている。 たとえば、平成29年度に、厚生労働省において不妊治療と仕事の両立に関する実態調査を実施した結果によると、・労働者が行政に望む支援として、「不妊治療への国民・企業の理解を深める」という回答が最も多いこと・不妊治療をしていることを職場に伝えていない労働者が多く、またその理由として、「職場に知られたくない」という回答が最も多いことなどの実態にある。このため、平成29年度には、不妊治療についての知識や、半日単位の年次有給休暇制度やフレックスタイム制度など、不妊治療と仕事の両立を支援する中小企業を含めた企業の取組等をまとめ、企業向けのリーフレットを作成し周知・啓発を進めている。 加えて、今年度は、従業員の不妊治療と仕事の両立をサポートする企業内制度の整備に関するマニュアルの策定・周知を予定し ている。 こうした取組を通じて不妊治療と仕事の両立に関する職場の理解や企業の取組の促進を図ることで、誰もが働きやすい職場づくりを進めていく。

Q.貴省作成の不妊治療連絡カードとリーフレットについて、貴省または各自治体から雇用側に配布するよう変更してほしい(現状は当事者が雇用側に渡す方式)がいかがか。
A.不妊治療連絡カードは、不妊治療を受ける、今後治療を予定している従業員が、企業側に、不妊治療中であることを伝えたり、仕事と不妊治療の両立を支援するための企業独自の制度等を利用する際に使用することを目的に作成したものである。不妊治療連絡カード及びリーフレットは、都道府県労働局や地方自治体、厚生労働省ホームページ等を通じて、事業主・労働者等に配布し、その普及促進に努めているところであり、引き続き取り組んでまいりたい

回答が分かりにくいですが、不妊治療連絡カード及びリーフレットは現時点でも雇用側に(も当事者側にも)配布しているので、雇用者側が当事者に渡すところまで促進していきたい、という内容で、これに関しては前向きな回答と理解しました。

Q.ギャンブル依存症治療が保険適用されるという報道があったが、所与の保険適用の考え方にどのように適用されているか。
A.新規の検査や医療技術の保険適用については、
①治療と疾病の関係が明らかで
②治療の有効性や安全性等が確立しているもの
について、普及性や社会的妥当性等も考慮して中医協において議論した上で判断している。
ご指摘のギャンブル依存症の治療については、
・WHOの国際疾病分類第11版(ICD-11)及び、アメリカ精神医学会の診断マニュアルDSM-5において、「ギャンブル障害」がアルコール依存症や薬物依存症と同様に疾病として位置づけられている
・アメリカなど諸外国において心理療法に基づく治療プログラムが行われており、ギャンブルへの依存行動が減るなどの治療効果が報告されている
これらのことから、当該治療の有効性・安全性等を踏まえ、保険診療における位置づけについて、中医協において議論しているところである。

特定不妊治療に対して保険が適用されていないことに問題意識を持っている方が多くいらっしゃいます(日本維新の会でも、たとえば石井苗子参議院議員は特定不妊治療の保険適用を模索されています)。感覚的には、ギャンブル依存症よりも特定不妊治療の方が軽く扱われているように感じられるのはもっともだと思います、というよりも私自身そういう感情に振り回されるところは率直にあります。ただ、ギャンブル依存症に限らず、保険適用の考え方は上記の①②で透徹している、という事実は、私なりにしつこく探ってみた結果、確認できたところです。この保険適用の考え方自体に挑戦していくのか、それとも助成制度の拡充、究極的には無償化を目指していくのか、目指している同じ頂に、どのアプローチがより早く到達できるのか、議論を尽くしていきたいと思います。

議論を尽くすのですが、一方でもう時間がありません。

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