特定不妊治療への助成制度について(厚生労働省と打合せ)
日本の最大の課題は、少子化だと考えています。
そして少子化に対する解決策は現時点で見出せておらず、想定以上のペースで悪化している宿痾になっています。先日の日本経済新聞に、想定より2年早く今年出生数が90万人を割り込む見込みと記事が出ました。
課題と認識されてから久しく、働き方や生き方にまで手を突っ込みながら、解決の糸口は見えていません。少子化に関しては、経済合理性を超えて「できることは全てやる」しかない状況に追い込まれていると考えています。
政権も無策だったわけではなく、産育休制度の整備や働き方改革関連法案、幼保無償化などを出生数向上にインパクトさせようとしていますが、これらは「子どもを持ちたいと思っていない人が、施策の成果によって子を持つ意欲を持ち、子どもを産む」というストーリーの上にある施策といえます。
一方で、「子どもを持つ意欲をおのずから持っているが、子どもが授からない」という人たちがいて、そのうち不妊の検査や治療を受けたことがある割合は夫婦の5.5組に1組と言われています。不妊治療は大きく分けて一般不妊治療と特定不妊治療という2つのステージがあり、一般不妊治療は原則として保険適用、特定不妊治療は保険適用されません。保険がきく一般不妊治療も、患者負担分で数万円になることが度々あり、これまで風邪か虫歯でしか病院に行かなかった人からすると衝撃を受けますが、特定不妊治療は年間193万円かかるというデータがあります。この負担を緩和するために、治療にかかる必要の一部を、世帯所得730万円以下の世帯に対して助成する制度があります。このあたりの現状については、私の過去記事に出典も含めて詳細に記載しています。
子どもを持ちたいという思いからなる不妊治療の経済的負担によって、産まれくる子ども達のため、自分たちの将来のための貯蓄を減らしたりなくしたりしてしまう、という状況があります。子どもを持つことが「道楽」のような世界線の話であれば、経済原則に任せていい話だと思います。ただ、国難レベルの少子化に直面している日本において、何とか子どもを成そうとしてくれている夫婦は国を挙げて支援すべき存在です。また特定不妊治療によって誕生した子どもは過去最高を更新し続けており、出生数に関連する各種指標の中で唯一の光明となっている事実があります。
将来世代のための政治を行うという自らの志に照らして、東京23区で最も合計特殊出生率が低い杉並区で不妊治療を無償化することを目指し、杉並区議会議員として活動しています。
(選挙期間中のビラ)
特定不妊治療(体外受精・顕微授精)に対する助成制度について、杉並区に対して過去二度の一般質問の場面で質問をしてきましたが、杉並区は国や都の制度を踏まえて上乗せ助成をしていて、制度に問題はなく見直す必要はない、という答弁でした。
そのような答弁からすると、国の制度が変われば、杉並区の制度も追従する可能性が十分にあると考えました。そのため、国政政党「日本維新の会」の所属議員として、不妊治療制度の政策担当という立て付けを用意してもらい、所管の厚生労働省に国の制度について質問をしてまいりました。
質問に先立ち、制度の概括に関するレクチャーが厚生労働省側からありました。
この内容を資料化したものについて説明を受け、以下の通り質疑を行いました。
■質疑一覧
Q,高度不妊治療への助成制度の所得制限は制度が始まった平成16年から変わっていないのか
A,平成16年度に650万円からスタートしており、19年度に730万円に改定。それ以降は変わっていない
Q,当時の見直しに至った経緯は
A,妻25歳~44歳の子どもがいないまたは子ども一人世帯の9割をカバーする考え方で設定した
Q,平成19年度と比較して共働き夫婦は相当増えていると考えているが、所得制限を見直す時期をどこかに設けるべきではないか
A,実施状況等踏まえ、必要に応じて検討する
Q,不妊に悩む方への特定治療支援事業の予算として、平成30年度163億円となっているが、執行率は
A,この事業は不妊治療だけの補助ではなく統合補助金で実施しているので、事業ごとには把握していない
Q,男性不妊治療に対する補助が手術に対する助成になっているが、男性不妊は最初の一歩を踏み出すことが課題ではないか。対象治療のハードルを下げ、あわせて補助額も下げれば、同じ予算でより多くの不妊患者の力になるのではないか
A,手術の経済負担に対して何とかしてほしいという声があったことがきっかけで制定した。それ以外の要望は把握していない
Q,女性の身体に対する治療の補助について、助成額が足りないという声は上がっていないのか
A,上がっている。今の補助額よりも高度不妊治療に費用がかかることはこちらも承知している
Q,制度や助成額の見直しも検討してほしいが、まずは今の90%をカバーするという現行制度の正当性を確認する観点で、対象世帯の所得分布を確認すべきでは。総務省の調査を民間企業が分析したところ、前提に多少差異はあるが都内共働き世帯所得900万円以上が31.2%という調査もある
A,平成19年に対象世帯の所得を確認した際も、特別統計の手続きをとって調べたようなので、すぐに取り組むことは難しいが、統計担当とシステムと調整するので一旦持ち帰りとさせてほしい。通常取っているデータの集計を、検討するために必要な情報を出すために集計し直す手続きが特別集計。
Q,上位10%はお金あるんだから自分でやってよ、ということ?
A,そういうわけではなく、予算がたくさんあれば全体をカバーしたい。当時の財政状況や、年々不妊治療の助成件数も増えている中で、一定の制限を設けることで制度の立ち上げを急いだ。
Q,制度設計当初の問題意識通り、少子化は進行し出生数が90万を切ろうという状況で、子どもを増やす手段の一つである不妊治療に枷をはめている場合ではないのでは
A,・・・(回答なし)
Q,所得制限を見直すべきという声は上がっていないのか
A,不妊治療に限らず、今ある制度を拡充してほしいという声は、要望としてはあるが、申し訳ないが状況を見てとしか言えない
Q,今の制度が設計当時の理念にあったものかを再度検証してほしい
A,・・・(回答なし)
Q,制度設計について特に見直す予定はないか
A,今が来年度の予算要求の時期だが、来年度に向けて増やそうとしてはいない。今の時点では見直す予定はない
Q,統合補助金ということだが、目的別に分けて特定不妊治療支援に充てる割合を高めることはできないか
A,実施主体である都道府県が使い勝手がいいように統合補助金にしている。妊娠・出産包括支援事業や産後ケア、不妊専門相談センターなどに利用できる。母子保健医療対策総合支援事業の中の一事業として設定されている
Q,不妊治療に対して補助金をいくら支給したかのフィードバックは都道府県からないのか。都道府県単位では把握していないか
A,補助金全体での結果報告しか上がってこないので、不妊治療に充てられた金額は把握できない。都道府県単位で把握しているか否かはわからない
Q,当事者の中に相当数、保険適用について熱意をもっている方がいる。先日NHKで不妊治療の特集を放送していた時間帯などに #不妊治療費が保険適用じゃないっておかしくね のタグがたくさん使われていた。保険適用されないことに納得いっていない方が多い
A,健康保険法の趣旨に照らすと、何が保険適用になるのかを考えると、治療と疾病の関係が明らかであって、治療法の有効性が確立しているかどうか、という観点で個別に審査している。不妊治療費は対象にならないTwitterに書かれているということだが、子宮卵管、精巣精管閉塞など、体の疾病性に対する治療に対しては保険が適用されている。その先は助成事業で対応すると線引きしている
Q,不妊は身体の異常ではない、という理屈が説明しきれない
A,・・・(回答なし)
Q,民間の医療保険に入る時に、不妊症の一部の症状は疾患ありと認定されている
A,民間の保険会社にも考えはあるのだろうが、原因(疾病)に対する治療なのかどうか、が線引きになっている。子宮に問題があるのであれば子宮に対する治療をする。原因を究明するまでの検査についても保険適用される
Q,そうすると、抗精子抗体が存在する、など原因が明確な不妊症は保険の適用対象とすべきではないか
A,子宮内膜症、排卵障害などの場合に排卵誘発剤が有効、といった場合には保険適用される。有効性や治療方法が確立されているか、という問題はあるが、それらをクリアしていれば保険適用されている。全てが保険適用されていないわけではない。体外受精・顕微授精は疾病に対する治療なのかといえばちょっと違うと考えている
Q,昨年2月にゴナールエフペンという排卵誘発等に使われる薬が保険適用になったが、保険適用として利用しているクリニックが少ないという情報があった。厚生労働省から保険適用と通知しているが、現場のクリニックが把握しておらず認識に差があるがゆえに、本来保険適用の治療が自費診療になっているという可能性はないか
A,診療報酬に規定されているものについては周知されており、各医療機関はそれを見て対応しているはず。保険適用されるはずのものが適用されていなかったというケースは、保険適用の範囲を外れた原因に対する治療に使われた可能性がある。たとえばゴナールエフペンは体外受精に使う場合と人工授精に使う場合の両方がある
Q,本来保険診療なのに、保険が適用されない、ということは仕組み的に起きないようになっているか。制度として担保されているのか
A,不妊治療に限らずすべての治療に共通していえることだが、むしろ医療機関側が一番そこを気にするのでは。保険適用にならないと患者が減ってしまうので、現場はシビアに見ているはず。逆に保険適用ではない治療を保険適用で請求している場合は差し戻す仕組みになっている
Q.一般論としては理解できるが、好成績の不妊治療クリニックにおける医師と患者のパワーバランスを考えると、保険適用の可否にそこまで気を配っていない可能性は指摘する。ファクトを集めるが、保険適用の治療は必ず保険診療される制度を求めたい
A,・・・(回答なし)
Q,クリニックで医師から聞いた情報がSNS等で広まるなどする中で、不正確な情報をもとに不満を持っている人がいる可能性がある。保険適用に関する正確な情報を、医師を介さずに患者が得る方法はあるのか
A,薬剤情報を深く検索すればある程度把握できそうだが、薬剤を販売している会社のホームページが先に出てくるとその情報は載っていない。不妊治療に関する薬剤などの保険適用情報を全て発信するのかといえば現実的ではない。それについて知識をもっているのはやはり医師であり、彼らから説明することが必要。インフォームドコンセントなどの義務もかかっており、医師が主体的に説明することは当然に必要だが、それ以外の形は取りえないのでは
Q.医師向けに発信しているデータをインターネットに公開することはできないか。今も当事者はインターネット上でものすごく細かく調べている。情報を出す物理的な制約やリスクはないのでは
A,色々な意見はある。患者側が調べる情報は偏りがちで、正しい情報を基に適切な議論になる、ということばかりではない。
Q,着床前スクリーニングと着床前診断について、認可の状況は。流産を防ぐ着床前診断は、妊孕期間の損失を防ぐなど取り組む意義が強いことから、早急に進めてほしい
A,国で指針を定めているのではなく、産婦人科学会の中で指針を作っている。着床前診断PGTに3種類あり、A,M,SRそれぞれ取り組んでいるが、M,SRは学会側が指定した認定機関のみでデータを取って行う、臨床研究に進む前のプロセスを進めている。PGT-Aは流産を防ぐ目的で研究されているもので、まだはっきりした成果が出ておらず日本人のデータを集めて産婦人科学会が臨床研究を行っている
Q,巨視的に不妊治療助成を拡充すべきではないか、という観点で質問してきた。総論的には予算の制約が大きく手が出せない、ということ?
ニーズはあるので予算があればやりたいが、予算の制約がある現状では所得が高い人に、という進め方は難しい。相対的に所得の低い側からやらざるを得ない
Q,優先順位のつけ方は、声の大きさで決まるもの?
A,高所得者も対象にする、というのは言いづらい。所得制限を上げるよりは、15万円の補助額を20万円に拡充するという補助制度の拡充の方がやりやすい。所得制限も少しずつ上げていくというのが現実的
Q,政治の側がこういうふうに動いてくれたら、目指している世界に近づいていくんじゃないの?というアドバイスはあるか
A,直接当事者と会って話された上で、要望としてあることを我々にお知らせいただくこと。また、地方自治体の取組にも注目しているので、地方自治体で成果を出した取り組みがあれば、全国に広めていくべきという話を厚生労働省が進めていくことはできる
これらの質疑を踏まえ、日本維新の会として厚生労働省に提言すべき内容として、3点提言したいと思っています。
1.世帯所得制限の正当性を確認するために、特別統計の手続きを行うこと
2.医師向けに通知している保険適用の適否情報を、インターネット上に情報公開すること
3.補助金の利用状況を使途別に把握すること
党内での議論などを経て、厚生労働省に対して具体的なアクションを行い、「子どもを持つ意欲をおのずから持っているが、子どもが授からない」人たちが希望を持てる制度へと前進させていきたい。また、将来世代に対して責任のある政治集団として、少子化に対して一丸となって全力でチャレンジしていきたいと思っています。