杉並区性の多様性が尊重される地域社会を実現するための取組の推進に関する条例について

令和5年第1回定例会は、本日予算特別委員会の意見開陳と付託議案の採決が行われ、明日の本会議での採決をもって終了となります。

今定例会は令和5年度予算の審査が最重要議題ですが、同じくらいの熱量で協議されたのが議案第12号「杉並区性の多様性が尊重される地域社会を実現するための取組の推進に関する条例」案でした。パートナーシップ条例という呼び方もされています。

この議案に対し、私と私の会派は反対しましたが、予算特別委員会の採決では賛成多数で可決されました。議案第12号については会派の質疑を小林議員が集約して行った関係で、私自身の見解を表明する機会がありませんでした。また私も委員である予算特別委員会の付託議案であり、本会議での討論も原則としてできません。

万が一のことを考えて作成した討論原稿を転載することをもって、私の見解を表したいと思います。

 

議案が付託されていた予算特別委員会の一員でありながら、本会議においても討論の機会をいただきましたことについて、冒頭感謝を申し上げます。

議案第12号 杉並区性の多様性が尊重される地域社会を実現するための取組の推進に関する条例について、反対の立場から討論を行います。

私が目指す社会は、自由で選択肢の多い社会であり、その視点に立った時に、性の多様性が尊重される地域社会は実現されるべきであると考えます。そして、その実現に向け、区として取組を推進することについても賛同するものです。

報道機関の調査として、共同通信社が2月11日~13日に行った世論調査によると、同性婚を認める方がよいとの回答が64%、認めない方がよいの24.9%を大きく上回り、特に30代以下の若年層では81.3%が賛成しているということです。このような世論の動向について把握し、肌感覚としても理解しています。

その上で本条例案に反対します。

 

令和4年第1回定例会で3陳情第31号杉並区におけるパートナーシップ制度の創設に関する陳情が採択されたことを受け、1年間、プロセスを踏んで本定例会に提出されたこの条例案について、代表質問や一般質問、また予算特別委員会でも侃侃諤諤の議論となりました。この議論の中で、特に「性自認」というキーワードを挟んで、区議会に深刻な分断が生じていることを感じているのは私だけではないはずです。この分断を議会が解消できないままに、杉並区民の暮らしに本条例を適用していくことになるのであれば、そのことのあまりの無責任さに、議会の一員として忸怩たる思いです。

身体男性で性自認が女性の方による女性スペースへの立ち入りが、性を理由とする不当な差別的取扱いの禁止や、個人の権利利益の不当な侵害として制御できず、結果として侵入を許すことで性犯罪・性暴力を惹起するのではないか、という問題提起も度々ありました。区は「性自認と性犯罪を結びつける根拠に乏しい」「別問題」などと主張してきましたが、懸念されている場面において、立ち入りを制御してよいのか、それは不当な取扱いで立ち入りを認めるべきなのかの判断を瞬間的に求められるのは多くの場合民間事業者であり、FAQの整備や周知啓発の徹底がされたとしても、差別か区別かの繊細な判断を区民に押し付けることになります。さらに、その判断にも、区議会で露見している分断が持ち込まれることが懸念されます。つまり、ある施設管理者は、身体男性・女性性自認の方の女性スペースを利用することは、個人の正当な権利利益であるとして女性スペースの活用を認め、ある施設管理者は正当な区別として女性スペースから排除をするということが、施設管理者の思想信条に基づく瞬間的な判断の中で入り乱れることになります。区議会が住民の代表者で構成されており、民意を反映する議事機関だと信じる立場としては、施設管理者の判断も分断されるものと考えることが論理的帰結であり、いち区民として、その杉並区は今よりも相当に暮らしにくいものであるように思います。

本条例に関する議論のただなかにあって、私は既視感をずっと感じていました。この議論の構造は、武蔵野市の令和3年第4回例例会で否決された武蔵野市の自治基本条例の一部を改正する条例ならびに住民投票条例の構造に重なるものを感じています。2021年12月21日、私は武蔵野市議会で本会議を傍聴していました。賛否双方の意見が開陳される中、傍聴席にいて場の空気を決めたと感じる反対討論がありました。本条例案に敷衍できる範囲で、一部引用します。

「この条例の制定過程において、リスクマネジメントが不足している(中略)本来リスクマネジメントとして考えるべきは、市側の説明にあるように、「特定の意図を持った集団」であり、それは日本人であっても外国人であっても変わりません。何か悪いことをする人は国籍など関係なく、その個人が悪い、それだけです。民主主義において実際に不正の歴史はあり、それに対してどこまでリスクマネジメントを行うことができるか、それを踏まえた条例の中身と規則が求められます。(中略)これだけ思想により意見が真っ二つに分かれる提案をする中で、どちらかに寄せた内容を設定するのであれば、それこそバランスを取る、あるいはリスクヘッジをし、完全なる納得は得られなくてもこれだけはやりましたと説明する責任があると思います。ここが今回の案の実現可能性を最も損ねてしまった部分ではないでしょうか。(中略)この住民投票制度で国籍だけがクローズアップされてしまったのは、公平性を担保する全体的な提案がなく、リスクへの対策不足が原因として大きいと思います」

市を区に、国籍を性自認に読み替えていただければ、これが本条例案に対する手厳しい指摘として聞こえてはきませんでしょうか。答弁を聞いていて、区はこの「リスクヘッジ」を放棄したと判断しました。私には私自身より大切に思う愛する妻と娘がおり、このまちには同じように、とまでいわなくても、その健康と尊厳を守りたいと思う女性と子どもを含む多くの人がいます。議員諸兄姉におかれましても、同じような状況がおありだと思います。人生に暗い影を落とし続ける性暴力の被害から、大切な人たちを守りたいという、根源的な希求に対して、「根拠に乏しい」「無関係」と決めつけ、リスクヘッジを怠った。実際に性被害が発生するかどうかではなく、そういった当然の懸念に対するリスクを軽視し十分な対策を講じず理解を求めてこなかった。以上の理由から、議案第12号 杉並区性の多様性が尊重される地域社会を実現するための取組の推進に関する条例に反対いたします。

 

最後に、議員諸兄姉に申し上げます。議員の皆様お一人おひとりが「リスクヘッジ」のための重要な存在です。子ども達、自分の大切な人たちの顔を思い浮かべて下さい。その尊厳が無残なまでに侵害されてしまった時、あなたの支えが必要になります。その時に、皆さんの心に後ろ暗いところなく、真正面から向き合える、未来に向けた意思表示を心からお願いいたします。

結びにあたり、本条例案が否決されたのち、性自認にまつわるリスクが十分にヘッジされ、予告された「アップデート」が施された条例案、「性の多様性が尊重される地域社会を実現するための取組の推進に関する条例」の名に恥じぬ条例案が新生議会に提案され、私がその一員であった場合には、虚心坦懐に審議に臨みます。そのことをお約束すると同時に、重ねて議員各位に本条例案への反対を訴え、討論を終結いたします。