給与等議案に対する反対意見(全文)

令和5年11月29日、杉並区議会総務財政委員会で審議された

■議案第92号 杉並区長等の給与等に関する条例等の一部を改正する条例

■議案第93号 杉並区職員の給与等に関する条例の一部を改正する条例

■議案第94号 杉並区会計年度任用職員の給与及び費用弁償に関する条例の一部を改正する条例

について、反対の意見開陳を行いました。

私たちは、公務員の待遇改善自体を否定する、という考えに立ってはいませんが、終身雇用と年功序列からの微修正を積み重ねた結果、改革を重ねている民間の人材マーケットから取り残された、働く魅力に乏しい人事給与制度となっている現状から脱却する必要があると考えています。そういった本質的な改革を行わず、問題だらけの人事委員会勧告に基づき給与等だけアップさせる、という今回の提案は認められないものと判断しました。

議案第92号の採決では、委員会では賛成3、反対6と大差で否決されました。最終的な議決は12月6日の本会議で行われます。

意見開陳の全文を掲載します。

 まず、議案第92号について、杉並維新の会として反対いたします。
私たちは先の杉並区議会議員選挙においても、身を切る改革を行うことを申し上げてまいりました。身を切る改革は、それ自体がまとまった財源を創出する取組ではありませんが、覚悟を持って将来世代のために必要な改革を行政に求めていくための気迫を持つために重要なことと考えています。
しかしながら、本議案への反対理由は身を切る改革という理念によるものではないことは明確に申し上げたいと思います。一般に行政に対する瞬間的な成果の評価は難しく、議会の成果評価はさらに難しいものとされていますが、それにしても今の杉並区政や杉並区議会を評価して下さる区民が一体どれだけいるというのか。忸怩たる思いです。区民目線で私たち議員を含む特別職を客観視した結果、人事委員会勧告の問題点に言及するまでもなく、本議案には反対といたします。

議案第93号については、令和5年人事委員会勧告に示された、公民較差3,722円を解消するため、全級全号級の例月給級給与表を引き上げ、さらに特別給を0.1月分引き上げたいというものです。我が会派は公務員の待遇改善自体を否定する、という考えに立ってはいませんが、終身雇用と年功序列からの微修正を積み重ねた結果、改革を重ねている民間の人材マーケットから取り残された、働く魅力に乏しい人事給与制度となっている現状から脱却する必要があると考えています。公務員制度を抜本的に改革し、能力・実力主義に則り活躍している人材に報いる人事給与制度への変革を進めることこそが重要であり、そのような根本的な課題解決を先送りにして公民較差を精緻に算出することにどれほどの意味があるのか、疑問に思っていることを申し述べておきます。
その上で我が会派は、勧告の基礎となる、職員と民間従業員の給与比較の方法について、質疑を通じて確認してまいりました。企業規模50人以上かつ事業所規模50人以上の都内事業所を調査母集団としたということですが、経済産業省が行った令和3年経済センサスによれば、従業員規模50名以上の事業所の割合は3.3%とされています。商業統計調査は平成26年調査で廃止されていますが、最後の調査では杉並区内に2,468の事業所があり、従業員規模50名以上は35、わずか1.4%です。つまり人事委員会勧告は、ごく一部の上澄みともいえる民間との給与比較であり、それに加えて調査完了事業所の特殊性、行政の身勝手な、また同種調査との重複を意に介さず行われる調査に、誠実に対応する余裕のある企業の数値を基礎としていることから、ここで行われている公民較差に正当性があるとは到底評価できません。
また、人事委員会勧告では、平成30年4月の給料表切替の際に特段の措置によって生じた差額支給について、着実な解消を毎年明確に求めています。とりわけ任命権者に対しては任用面による差額支給解消が明確に求められているにもかかわらず、差額支給者は昨年4月1日時点で120人、今年は70人と50人減っていますが、任用による解消は8人に留まり、42人が退職による解消となりました。一時的、特例的な措置であり、常態的に執られるべきものではないと明記されているにもかかわらず、差額支給者の退職を座して待つかのような区の対応は、勧告のこの部分に対して誠実なものとはいえません。
人事委員会勧告は、労働基本権制約の代償措置として行われているものですが、労働三権のうち団結権については警察・消防以外の職員、つまり区の職員についていえば認められていると解されるものです。争議権は制約されていますが、団体交渉権は全面的にではないにせよ広範に認められているものであり、なればこそ労働組合との協議を経て本議案が提出されています。労働基本権の若干の制約に対する代償措置が、上位1.4%の民間企業との比較による公務員給与決定という理屈は、少なくともこの時代を生きる民間の感覚からは乖離しています。平成30年には人事委員会勧告に従わず、下げるべきとされた改定を拒否したことがありました。内容次第で従わないこともあり、従う時も差額支給者の解消など都合の悪い部分には従わないというダブルスタンダードも、区民の理解を得られるものではありません。

杉並区の職員は区内上位1.4%相当の優秀な集団であり、この金額に見合った働きをしている、と区長の責任の下提案された、ということであれば理解できます。物価高の状況や給与を引き上げようという社会的な機運も踏まえれば、引き上げという結論自体に反対するものではありません。たとえば10月20日に公表された消費者物価指数をみると、生鮮食品およびエネルギーを除く総合指数は2020年を100として105.4となっており、このことから2020年比5.4%の増、といった理屈であれば、物価上昇を公務員だけが即座に反映できることに対する違和感は残っても、一定の理解は得られるものと思います。
今回の提案はその根拠とされている人事委員会勧告があまりにも失当であり、これを根拠に引き上げるということであれば、賛成することはできません。また先ほど申し上げたように、人事委員会勧告に従わなかった過去があることを踏まえても、人事委員会勧告は区にとって金科玉条ではなく、区長による主体的な提案がなかったことを残念に思います。

以上の理由から、議案第93号について、杉並維新の会として反対といたします。

最後に議案第94号について、パートタイム会計年度任用職員に対する勤勉手当支給など、他の議案と比較しても見るべき部分はあるものと認識しているものの、人勧に沿った報酬の改定では待遇改善に対して不十分と判断し、反対いたします。