保健福祉委員会視察報告

10月29日、30日に、杉並区議会保健福祉委員会で行政視察に行ってきました。

区民の皆さんからいただいた税金を使わせていただきましたので、私なりの振り返りをご報告いたします。公式な視察報告書は後日区議会ホームページに掲載されます。

1.10月29日 岡山県岡山市「放課後児童クラブ待機児童ゼロを目指す取組について」

区のこども分野の取組のうち、現時点で最大の課題だと思っているのが、学童クラブ待機児童の問題です。
保育の待機児童は7年連続ゼロを継続していますが、保育待機児童ゼロ時代のこども達は小学生になっても学童クラブの利用意向が高いのは自明であり、対策が遅れてしまっているものと感じています。

私としてはこれまで、民間学童クラブの活用を提案するなどしてきましたが、区は小学校の中に区立学童クラブを作るという手法にこだわってきました。

岡山市さんは人口規模は杉並区より多く(約70万人/杉並区は約57万人)、待機児童はやや少なく(令和6年度236人/杉並区は388人)、民間学童クラブを活用されていました。また、令和5年度に、学童待機児童を令和7年度末までにゼロにする!ということを宣言されていました。杉並区はこの時点で学童クラブ待機児童ゼロへの道筋を描けていませんでした。また行政の計画として、短期間に課題を解決するという計画そのものの描き方にも魅力を感じ、6月に視察を申し込みました。

ところが、8月にこの計画を令和9年度末まで延ばすことが発表されました。想定を上回るニーズの増が要因だということでした。

また、視察を申し込んだ時点では、杉並区として学童クラブの待機児童をゼロにしていく道筋が見えていない状況でしたが、9月の保健福祉委員会に「子どもの居場所づくり基本方針(素案)」が示されました。児童館に関する方針転換が注目されましたが、放課後等居場所事業の全校設置も盛り込まれており、放課後等居場所事業には定員の概念が存在しないため、全校設置が完了すれば、理論上学童クラブの待機児童をゼロにすることが可能になります。つまりこの方針素案の発表をもって、杉並区も学童クラブ待機児童ゼロへの道筋をつけたこととなりました。

そういった面では、先進自治体の取組に学ぶというよりは、同じ時間軸で課題解決に向けた取組を進めていく仲間の手法に学ぶ機会という視察になったかと思っています。

 

杉並区の学童クラブは小学校内への移設が課題(予測よりもこどもの数が多く、小学校の空き教室が不足しているため)ですが、岡山市さんは昔から、学童クラブが小学校内に設置されていて、ハード面の課題は特になく、学童クラブで働く支援員さんの確保が課題になっているということでした。杉並区では支援員不足が課題として顕在化されていませんが、将来課題として注意しておく必要があることだと感じました。

また、岡山市さんは学童クラブ運営を地域(民間)で行っていることも特徴的だと感じました。もっとも、市政としては課題として捉えている部分も多いようで、令和2年度から4年度にかけて公立化を進めたものの、2割強の学童クラブが引き続き地域で運営されているということでした。担い手の高齢化も進み、運営の実態も詳らかには把握できていない(もちろん法的な基準を満たしていることは確認している)ようで、今後も機会を捉えて公立化を促していくということを考えているようです。

民間学童クラブについては、放課後児童健全育成事業として「遊びと生活の場」を提供する事業者にイニシャルコスト・ランニングコストそれぞれを補助する事業を行われています。事業者としては定員割れしている保育園などの参画があるということで、この手法は参考になると感じました。杉並区内にも多くの民間学童クラブが存在していますが、「遊びと生活の場」の枠を超えて習い事の要素が強い施設が多く、区が民間学童クラブの利用を促進しないことの理由にされていますが、一方で大阪市で行われている習い事・塾代助成事業のような施策を杉並区としても検討しているので、その議論の中で民間学童クラブとの向き合い方についても整理が進むことを期待しています。

 

2.10月30日 広島県尾道市「地域共生・重層的支援の取組について」

尾道市さんは、令和3年度から「重層的支援体制整備事業への移行準備事業」に、今年度から「重層的支援体制整備事業」に取り組まれています。地域共生社会の実現に向けた包括的な支援体制を構築するための事業であり、包括的相談支援、多機関協働、アウトリーチなどを通じた継続的支援など、地域の実情や特色等を活かした伴走支援の取り組みが開始されています。重層的支援体制の整備は、社会福祉法の改正によって創設され、自治体の努力義務とされているもので、杉並区でも今後整備していくことになっています。私たちが視察させていただいた翌日には内閣官房の視察が入っているということで、先進事例に学ばせていただきました。

尾道市さんの重層的支援の取組で特徴的なのは、国が示している4類型(子ども、障害、高齢、経済的困窮)に加え、孤独・孤立についても重層的支援の枠組みの中で支援されているという点にあると感じました。孤独・孤立も他の課題との相関性が強く、一体的に課題解決していく必要があるという指摘は慧眼であると感じています。

一方で、視察中の委員からの質問でも多く出ていましたが、重層的支援体制の要を担う行政のあり方、組織としての持続可能性のある向き合い方には課題があることも理解しました。他機関協働の場として尾道市さんでは「おのまる会議」を実施していますが、協働先である支援機関(民生委員や医療機関、介護施設など)は長年同じ地域で福祉に携わっている一方、行政の通常異動だと3-4年で担当者が変わってしまい、プロの中に素人が放り込まれて事務局運営する、という場面はこの手の会議体でよく見る光景です。尾道市さんでは今回説明して下さった生活保護担当の係長さんがこの役割に半ば固定化されつつあるようで、公務員のキャリアトラックを整理して杉並区も同じように対応していくのか、それとも短期間で異動しても会議体をワークさせられるような工夫ができるのか、という点は重層的支援体制の整備における肝になるな、と感じました。

組織の中の位置づけも、現在杉並区では課長が兼務している状況ですが、障害者の雇用で観福連携(観光と福祉の連携。杉並区では農業と福祉の連携があります)を進めるなど、部をまたいだ取組も多くあるようで、保健福祉部の中でも相応の重みをつけたポジションの中で進めていく必要を感じました。