学校給食費無償化の論点について

杉並区の学校給食費無償化は、2023年10月から2024年3月までの時限的な施策として補正予算で提案されています。明日(9月25日)の総務財政委員会で審議し、明後日(9月26日)の本会議で議決されます。可決された場合は、10月から給食費の引き落とし(徴収)が停止されることとなります。

https://www.city.suginami.tokyo.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/085/763/922-3.pdf

 

私は学校給食費の無償化という政策について、昨年9月15日、今年9月11日と一般質問で取り上げ、また今年4月の杉並区議会議員選挙の選挙公約としても掲げてきました。

昨年の質問で、この政策は自治体が行う少子化対策として恒久的に行うべきと主張し、今年の質問に対する答弁では「少子化が加速する中、子育てを社会全体で支える重要性」が政策目的に盛り込まれたことを確認しました。一方で恒久的な実施については明確になっていない状況です。

 

学校給食費無償化について、他の自治体では議会も大半が賛同しているケースもあるように認識していますが、杉並区では様々な異論・反論が議会で出てきています。そのうち、「杉並区立学校における義務教育保護者負担軽減のあり方検討委員会」の検討報告書のアンケート結果を尊重し、学校給食費よりも保護者の負担感が高いことが明確になった「習い事にかかる費用」「被服等にかかる費用」への対策を優先すべき、という主張が多くあり、私の9月11日の一般質問の中で、その2つの費用負担に対する具体的で実現可能な対策を提案したところです。

 

その上で、今定例会でも多くの指摘がなされている、学校給食費無償化政策の課題について2つ、私自身の思考の整理を兼ねて記事にしたいと思います。杉並区議会は議員間討議の仕組みがなく、議会における質問者は常に議員(委員)で答弁者は理事者となります。聞きながら、「私だったらどう答弁するかなー」と思っていたことをまとめてみたいと思います。

 

1.学校給食費無償化は不公平な子育て世帯向け給付である

今回の区の提案は区が設置者である区立の小中学校と特別支援学校を対象とした現物給付であり、国立や私立、また特別支援学校を含む都立の学校に通う児童の家庭にその恩恵が及ばない点について、不公平であるという指摘が複数聞かれました。

 

私も所得制限をターゲットに、子育て世帯を所得で分断するような制度設計はやめるべきだと主張してきました。これが経済支援の施策である限り、この指摘はごもっともです。

私はこの政策は「少子化対策を見据えるべき」と主張し続けてきました。少子化対策としては、区立学校を対象とした制度設計で正解だと考えます。

 

国立社会保障・人口問題研究所が昨年実施した「第16回出生動向基本調査(夫婦調査)」内「夫婦が理想の数の子どもを持たない理由」として最も多いのが「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」という理由です。

(P75)https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou16/JNFS16_Report04.pdf

この結果から、子育てや教育にかかるお金を減らすことで、夫婦が理想とする数の子どもを持てるようにする、ということが少子化対策の方針の一つと考えられます。

 

結婚し、「子どもは2人ほしいよね」と話し合っているご夫婦が、自分の会社の先輩から子育てにお金がかかりすぎる現状を聞いて、「うちの会社だと2人は無理っぽい」「だったら1人にしっかり教育費をかけてあげたい」という意思決定をする。これが理想の数の子どもを持たない心情であって、こういったことの積み重ねが少子化であると考えています。

 

夫婦が子どもを持ちたいと思うタイミングと、教育にお金がかかりはじめるタイミングは短くても7年ほどずれていきます。理想とする数の子どもを持てるかどうか検討する夫婦は、この先20年間のキャリアを展望しつつ、住まいをどうするか、実家の支援があるかなどを総合的に判断し、理想の子どもの数に向かっていくのか、諦めるのかを判断していく。その時に、「この先ステップアップ転職を繰り返し、10年後の年収は今の3倍なので、子ども4人でも5人でもどんとこい!」という人は少ないですよね。VUCAの時代といわれて久しいですが、先行き不透明な現状から「会社の先輩の中で出世頭ではないあの人くらいの収入を念頭に置こう」「下手したら会社が傾くかもしれないから、今の収入を前提に計画を立てよう」という考えの方が多く、また増えているように感じています。

 

子どもが学齢期に到達した時に、生活にゆとりがあるかもしれないし、ないかもしれない。この両面の可能性がほとんど誰しもにあり、その中で多くの家庭が子どもの数を意思決定している。生活にゆとりがなかったら、区立の学校に行くことになるけれど、区立の学校に通うにもお金がかかる。本当は子ども2人ほしいけど、2人とも公立に行ってもらって、好きな習い事もさせてあげられないかもしれない・・・それだったら1人にした方がいいよね・・・。

 

この気持ちを支えるための、区立学校の学校給食費無償化だと私は考えています。仮に明るい予測に基づかない未来を迎えたとしても、2人育てていけるよね。子どもの数の理想を考えるご夫婦に、そういう気持ちになってもらうためであれば、学校給食費を無償化するという予算規模の大きい政策が大切な意味を持つと思っています。

 

そして、両面の可能性があるうち、幸運に恵まれ、また実力が評価され、ゆとりのある生活を送ることができ、子どもに私立などの様々な選択肢を検討できるということであれば、それは素晴らしいことだと思います。さらにいえば、その時に「こんな豊かな未来が待っているとわかっていれば、もう一人子どもを産んでおけばよかった」という後悔を持たれないためにも、暗い将来予測を支える施策の一つである、学校給食費無償化は重要だと思っています。

 

 

2.学校給食費無償化が少子化対策だという根拠は何か、それをEBPMの観点からどう考えるか

 

学校給食費無償化が少子化対策、という根拠については1.で語り尽くしましたが、それをEBPMの観点からどう考えるか、つまり「学校給食費無償化は少子化対策になることは、根拠に基づいて確からしいのか」という指摘です。

 

根拠は上に述べたように、国立社会保障・人口問題研究所が昨年実施した「第16回出生動向基本調査(夫婦調査)」内「夫婦が理想の数の子どもを持たない理由」として最も多いのが「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」という理由であることなのですが、「じゃあ子育てや教育にお金がかかりすぎないようになったら少子化は確実に解決できるんですか?」と聞かれると、これについては賛否両論あります。読んで下さっている皆様もご存知の通り、高福祉高負担型の北欧で少子化が改善したのだ!という主張がある一方で、いやその北欧ではこんな問題がある、統計の取り方がどうの、と反論も多くあります。理屈としては改善の方向性に向かう蓋然性が高いと思いますが、他国の事例に依って立つとしても、日本で同じように動くとは限らない、と言われればそれはその通りです。

 

私自身EBPMを重視する立場で、検索するとこれまで本会議でも4回この単語を使用していたようです。多額の経費がかかる事業なので、できるだけ確からしい根拠に基づいて実施できることが望ましいという点は私も同じ思いです。

 

ですが、少子化という課題に対する打ち手について、少なくともこの国ではまだ成功したといえる事例がない中で、「根拠に基づいた」とまでいえなくとも、傍証がいくつか存在する政策についてチャレンジする必然性がある時機であると私は思っています。リクルート用語でいうところのエイヤーが、少子化対策には求められるのではないでしょうか。公金を使って政策立案を行う以上、エイヤーの乱発は当然認められません。ですが少子化対策という課題の重要性と、なかなか答えを見出せていない状況において、エイヤーを排した政策立案を続けていく中で勝ち筋を見つけていく、というのはそれこそ蓋然性が低い考え方だと考えています。EBPMで固めた的確な政策で福祉を増進しながら財源を生み出し、難しい課題にチャレンジしていく、というのがEBPMの正しい使い方ではないかと思います。

 

ここまで述べてきて、この件の根本的な問題の一つが、学校給食費無償化の議案の提案者であり、この政策を区が提案するきっかけとなる公約を掲げた区長自身が、自分の言葉で「どうしても少子化を解決したい」「だから学校給食費を無償化したいんだ」という熱意を表現していないことにあるのではないかと感じるようになりました。予算編成権者である区長の情熱が伝われば、「それだったら信じてやってみようじゃないか」と思ってくれる人も少なくないのではないでしょうか。